2016年2月5日

完成する作品を想いながらつくる過程も楽しむ 「組紐」の奥深い世界

和を楽しむア・ラ・カルト

そもそも組紐って何?

一般的に「組紐」と聞いて一番身近で分かりやすいのは、着物を着た時、帯の上に締める帯締という使い方だと思います。
着物を着る時に帯の上から締める一筋の紐であり、最後の仕上げとして結びます。

組み方は機械組みと手組みがあり、また素材も絹や化繊とさまざまですが、
今回は手作りである手組みの「組紐」のお話です。

「組紐」の代表的な種類は平紐と丸紐の2つ。
丸紐のほうが格式の高い紐ですが、今は風習にとらわれず自由につける人が多いそうです。
使用する糸や柄、組み方などで「組紐」の格が決まるそうで、金や銀糸である光りものの糸を入れた組紐はフォーマル仕様になります。

うさぎの帯に合わせて作った三分組
うさぎの帯に合わせて作った三分組。十五夜を表しているので秋の装いに。(大野先生作)

「組紐」の作り方は?

「組紐」の作り方は、糸を巻いた組玉を3玉以上使い、一定の組み方に従って交互に交差しながら組んでいきます。最初は角台という組台を使い、少ない玉数で組んでいきます。
玉数を増やしていくことで柄を入れたり、配色の工夫でグラデーションにしたり、複雑な大作を楽しむこともできます。

作品によっては仕上げるまでに何カ月もかかることがあるほど、緻密で細かい行程をくり返して組み上げていきます。

松柄の帯締
松柄の帯締は68玉を使って作成。光糸を用いたフォーマルなもの。(大野先生作)

「組紐」人気の秘密

着付教室や着物レンタルサービスが充実して、いっそう身近になった和装は
特別な日だけでなく、ちょっとおしゃれをした時の装いとして、幅広い層に浸透しています。
気軽に着物を着る人が増えてきた昨今、手組みの「組紐」への興味もぐんと広がっています。

自分好みの色や太さ、模様などが自由につくれる「組紐」は、専門講座のある教室があるほどの人気です。
たとえば、長沼静きもの学院の「くみひも科」ではお試しコースとして「くみひも選べるプラン」があり、絹糸を使った小物1つと帯締1本が作れるそうです。
2時間で作れる手軽さから、気軽に申し込むかたが増えています。

「組紐」は1度覚えれば、帯締にする以外にもいろいろ楽しめます。
例えばブレスレットにしたり、携帯ストラップにしたりチャームにしたり、
アレンジもいろいろできるので、着物を熟知したかたから、若いかた、
最近は男性も「組紐」の魅力に惹かれて教室に通うかたもいるそうです。

「組紐」を作ることで得られる2つの喜び

「組紐」を作る喜びは2つあるといいます。
1つは自分で使ってみたい作品を思い描き、コツコツと作り上げたものが出来上がった時。
もう1つは、贈る方を思い描きながら作ったものが、相手に喜んでいただいた時。
「組紐」は大切なかたへ贈るプレゼントとしても最適で、
最近は、結婚式の時に新婦さんからご両親へ「組紐」で作った帯締とブートニアをプレゼントする企画のある式場もあるそうです。

「組紐」で作った帯締とブートニア

単純な組み方ほど難しさがあると気づき原点に戻ることも

「組紐」をつくる時、自分の思い描く仕上がりを思いながら、また、プレゼントしたい人を思い浮かべながら、ひと目ごとに気持ちをいれて、コツコツとつくっていく地道な行程のくり返しです。
完成した作品を見ると、
「あ、この時はこんなことを思いながら組んでいたから、ちょっと組目の表情が違うな」
と、その時の気持ちが分かるほどに、自分の感情と向き合える、繊細な技術の世界です。

単純な組み方ほど、仕上がりに差が出ることがあるという「組紐」。
手の込んだ大作を作れるようなベテランが、あえて単純で初歩の組み方に戻ることで、基礎の大切さに目覚めさせられることもあるという、何とも奥の深い世界です。

できあがりの出来不出来きはもちろん重要ですがそれ以上に、作っている時の想いやその過程を楽しみ、ひと目ひと目集中しながら丁寧に組み上げていくことが「組紐」の醍醐味の1つと言えます。

たかが一筋されど一筋

帯締は着物を着装する時、一番最後に帯の真ん中に締める大切な役割を持っています。
この帯締がなかったら、全部ほどけてしまいます。
また、帯締次第で自分が選んだ着物や帯が輝くか、野暮ったくなってしまうかが、
がらりと変わってしまうほど、名脇役の存在と言えるでしょう。

「たかが一筋、されど一筋」。細部まで心の入ったこだわりが、昔から持つ日本人の粋や、
調和の美しさにつながり、そして豊かな文化となっていきます。

お話をうかがった先生
大野静穂さん
大野静穂さん

長沼静きもの学院 組紐講師 講師歴33年。日本組紐協会事務局

様々な教室で組紐講師を経て現在、長沼静きもの学院本部にて日本組紐協会の仕事をしています。
生徒さんには着物を引き立てる一筋の帯締の大切さを「帯一筋に対して帯締三筋」という言葉で伝えます。また、ひと目ごとに自分の気持ちと向き合って制作していく過程での一喜一憂が、そのまま組み方に現れることの楽しさや素晴らしさも教えています。